桂小米朝の「新・私的国際学」<24>(2003年9月28日)

最近、昭和30年代を振り返る企画をよく目にする。戦後の日本が、古き良き秩序を残しながらも、新しいスタイルを取り入れた時代。あのころを懐かしむ中高年のなんと多いことか!作家のなかにし礼さんもその一人。『てるてる坊主の照子さん』という底抜けに明るい小説を書いた(戦時下を描いた『赤い月』とは全く違うタッチである)。

敗戦が色濃くなってきた昭和20年の春に見合い結婚をした、とある夫婦。夫が戦地に赴くも、ほどなく終戦。復員後、毎年立て続けに4人の子供を産んだ。一家を支えるべく、大阪は池田の栄町商店街でパン屋を開業した夫の傍らで、妻の照子はシャトーという名の喫茶店を始める。早くからテレビを置くなど、常に流行の先端を歩んだ。大切な行事の前日には必ずてるてる坊主をぶら下げるというフツーの信心家。激動の昭和を懸命に生き抜いた人である。

実は、照子は作者の妻の母がモデルになっている。四人娘も実在する。長女はフィギュアスケートのオリンピック選手で、次女はなんと女優のいしだあゆみさん。ちなみに四女、石田ゆりさんの夫が作者。

この作品がNHK連続テレビ小説『てるてる家族』となって明日から放送される。昭和30年代――、日本のあちこちにバイタリティあふれる家族が存在し、それが戦後の復興に寄与したように、“朝ドラ”もまた日本の高度経済成長の象徴であった。家族が助け合い、夢の実現に向けて頑張る姿がお茶の間の共感を呼んだ。バブル崩壊(第二の敗戦)で社会全体が意気消沈してしまった今日、ドラマであの頃を思い出すことが元気を取り戻す原動力になるのではないか。

今回は、父親役に岸谷五朗さん、母親役に浅野ゆう子さん。ユーモアあふれる方々がミュージカル仕立てで笑わせてくれる。えっ、何でお前がそんなに詳しいねんて?

実は私も出てますねん。喫茶シャトーの隣で本屋を営む松本勘助という役で・・・。お楽しみに!