桂小米朝の「新・私的国際学」<9>(2003年6月1日)

数々のタレントを世に出した元吉本興業の敏腕マネージャー、木村政雄氏が塾を開設する。その記念講演を聴きに行った。タイトルは『〝個〟の時代を前向きに生きる』。米朝事務所のもとで、芸歴25年を迎える私が今さらながら聴講したのは、昨秋、私の担当になったマネージャーが、「小米朝さん、意識を変えましょ」と発言したことによる。

25歳の彼女がすすめたもう一つの理由は、ゲストに作家の中谷彰宏氏が来るからだった。広告代理店に勤めた後、豊かな生き方のノウハウ本を500冊以上出版し、テレビドラマにも出演しているマルチタレントの彼を私に見せたかった・・・というより、彼女が見たかったのだ。

まず、木村さんの基調講演。のっけから含蓄のある言葉が矢継ぎ早に飛び出す。笑いを取りながら一気に進むテンポの良さに、私はどんどん引き込まれた。「どっちが芸人はわかれへん・・・」。

次に、中谷氏の講演。人間ウォッチングに秀でた彼の切り口に、自分の国際的センスの欠如を思い知らされた。そして、二人のトーク。会場からの質問に答える当意即妙ぶりは大喜利そのもの。

「落ち込んだときはどうすればいいんでしょうか」「自分より落ち込んでいる人を見つけて、その人を大いに励ましなさい」

二人に共通する視点は、組織を離れる感覚が必要だということ。属性のスキル(技術)にしがみついては成長しない。セルフ・プロデュース(自分自身の研鑽)が肝要だと力説した。

もう一つは、金儲けが目的ではないとうこと。金儲けは手段であって、その先に「何がしたいか」が見えていることが大切。「カネよりも、人とのつながりがより大きな財産である」。

塾の名前は「有名塾」。無名に対するのではなく、匿名に対する有名。自分の名前で仕事ができる人材育成こそ、日本を元気にする一番の方法であるようだ。