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桂小米朝の「新・私的国際学」<27>(2003年10月26日)

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先日、私は芸能生活25周年記念落語会の一環で、熊本県山鹿市にある「八千代座」という芝居小屋を訪れた。


熊本空港からクルマに乗ること50分。八千代座に着いたとき、初めて訪れる土地なのにとても懐かしい気持ちになった。中へ入ると、その気持ちが一層高まった。世界に誇れる芝居小屋――。廻り舞台に、花道、そしてスッポン(花道のせり上がり)まである。明治生まれのこの小屋はわれわれ一行を温かく迎えてくれた。


いざ開演すると、お客さんの反応がとてもダイレクトに伝わる。演じやすく、見やすい劇場・・・。舞台と客席が一体となる。私は急きょスッポンから登場することにした。舞台転換はすべて手動。四人の地元スタッフが、私の身体を台ごと「よいしょ」と持ち上げてくださった。スポットライトと満場割れんばかりの拍手に大感激。「また来たい・・・」。私は素直にそう思った。


木の温もりと人の温もりに支えられてこそ、劇場は育つ。八千代座は、一時は閉鎖もささやかれたが、町の有志たちが「芝居小屋は使われてこそ生かされる」と、資金援助、人的援助に乗り出した。8000万かけて新しい楽屋とけいこ場を作った。その熱意に感銘を受けた坂東玉三郎丈が毎年公演することを約束。八千代座の名を全国に知らしめた。


現在、昔ながらの芝居小屋は全国に16ヵ所ある。その中には、洪水による損壊のため復旧作業中の嘉穂劇場(福岡県飯塚市)や、昭和61年に見事によみがえった康楽館(秋田県小坂町)、大阪府池田市から移築された呉服座(愛知県犬山市)などがある。


大阪では中座がなくなり、次々と劇場は閉鎖されていく今日、私の巡業は一芸人としての〝ふるさと探し〟なのかもしれぬ。次の公演先は愛媛県内子町の内子座。ここは11年前に米朝独演会で訪れた思い出の地。ここでも「地獄八景亡者戯」を演じることができる私は幸せ者だ。