トップへ

桂小米朝の「新・私的国際学」<13>(2003年6月29日)

 TOP » 過コラム一覧 » ②産経新聞「桂小米朝の新・私的国際学」 » 桂小米朝の「新・私的国際学」<13>(2003年6月29日)

私は路面電車のある街が好きだ。地に足がついてるって感じがしてね。函館、豊橋、岐阜、岡山、広島、松山、高知、長崎、熊本・・・。これらの地方都市は大都市よりも都会的だとさえ思ってしまう。


高度経済成長の余波で隅に追いやられた路面電車たち。京阪神の市電はとうの昔に廃止された。昭和44年に大阪から、53年に京都から姿を消した。


「残念やけど仕方ない。路面電車はいずれ消える運命にある」と思いきや、近ごろその良さが見直されつつある。全国からの古い車両が活躍している広島では、数年前から『路面電車まつり』が開かれていて、今年は最高の人出を記録した。人気の理由は「楽しくして、同時に癒されるから」。


なぜ路面電車は人の心をなごませるのだろう。私は〝音〟に秘密があるのではと推察する。独特のモーター音と、レールの継ぎ目をひろう車輪音の組み合わせが、胎動のリズムと似ているのではないかと思うのだ。この感覚は地下鉄やバスでは味わえない。


先日、大阪市交通局の市電保存館に入れてもらった。私は明治44年製の旧型車両に一目ぼれしてしまった。なんとカッコいいことよ。貴婦人と呼びたくなるような外観と、木のぬくもりを感じる内装。これが一般の公道を走っていたとは・・・。戦前のモダニズムが偲ばれる。路面電車は街のおしゃれ度が反映される乗り物だったんだ。


路面電車を手放さなかったヨーロッパの各都市は、今やドイツを中心にしたLRT(ライト・レール・トランジット=新都市交通)構想を次々と具現化させており、それが国際都市のバロメーターともなっている。


かたや、軌道をはずした日本の大都市。果たしてどちらが近代化に成功したか・・・。折しも時代は、スローライフの追求!


幸い、大阪の阪堺電車や京都の京福電車など、大都市でも民間で少し残っている。願わくは、21世紀の都市計画に「路面電車の再生」を盛り込んでいただきたい。建設費は地下鉄の1/10、モノレールの1/5だから・・・。


※一言加筆…紙幅の都合で新聞記事には書けませんでしたが、路面電車のある地方都市としては、ほかにも富山や福井も鹿児島などが挙げられます。えー、まだ少しありますよ。もちろん都会にもありますしね。何とか、栄える方向に持って行っていただきたいものです。